当主の随想 Ⅲー3 [吉村家住宅あれこれ]
事実、この家が戦前国宝に指定されたときは、はじめ奥座敷
のみを美術工芸品として、部分的に指定する考えだったが、
当時民家の再評価の機運があり、環境も含めた「民家」として
初めての指定となったのである。
欄間の透かし彫りもクギかくしも、デザインがひとつひとつ
ちがう。
奥庭には深々とハゼの落ち葉が散り敷いて、散り残った紅葉が
深紅である。立方体の手水鉢も贅肉がなくていい。
わたしはすっかりいい気分になったが、この家をお守する吉村
さんは大変だろう。
「いやー。この家にうまれたときからきめられたことで、選択
の自由はなかったんですし、といっても宿命というはどの暗い
感じも持ってはおりません。
ただ、私生活と古い民家の維持とはきっぱり分けていこうと
思ってます。私生活と別に保存会をつくって、見学料などは、
そちらに入れて維持費や補修費に積み立てております。
でもわたしがこの家の保存に本腰を入れたのは三十台の半ば
過ぎでした・・」
2023-02-18 19:27