当主の随想 Ⅲー4 [吉村家住宅あれこれ]
それから、吉村さんは面白いことをいった。
「古い家はどこでもそうだと思うんですが、こんな古い家を
きょうまで持ちこたえたのは、たいてい主婦の力じゃないでし
ようかね・・」
河内平野の富裕な大庄屋であった吉村家も、明治維新では
武士に高額の金を貸していたのが踏み倒され、困窮した。
近親集まって、家も縮小することにと話し合った。
そのとき、たったひとり反対したのは当時の主婦、「ゆう」
ばあさんだったという。 「わしは近いうちにお墓にはいって
ご先祖におめにかかるが、家をこわしたとあってはどないいう
て申し開きしたらええか?お前らもそのうちお墓にはいるが
どういう気か?」と粘りぬいた。
これには親戚一同も弱りはて、この家は無事に残されたので
ある。吉村さんの四代前の主婦だという。
ゆうさんは大変な女傑だったらしく、いつも白ハチマキを
しめて台所の長火鉢の前で、立て膝になり、長セルをもって
指図していたという。出入りの者たちはあまりに怖くて顔も
あげられず、ろくに顔を覚えた人もないというほどだから、
よほどすごい女丈夫であったのであろう。こんな女にかかると
たいていおとこなんか歯が立つまい。
(つづく)
2023-02-25 18:25