当主の随想ー4- [吉村家住宅あれこれ]
大戸口のシンプルな冠木を仰ぎつつ敷居を越えれば、夏でも
ひんやりするほどの薄暗い空間がひろがる。竹すのこの 土天井
を縦横に走る大小の梁が支え、奥の釜屋に至るまでが柱無しの
土間となっている。
この見事な空間の拡がりの片隅に、さりげなく小さな 吊り部屋
を設け、その取り付け梯子に、壁面の装飾を兼ねさせている工夫は
実用一点張りでなく、実に巧みな演出である。いい意味での遊び心
がくみ取られ、おおらかなゆとりを持った構成間隔が窺われる。
それはまた、煙突を省略した「かまど」の機能的、効率的な造形
にも、古人の生活と知恵が結びついたデザインとして表われている。
約二十坪ほどの空間を広々と開放した土間向こうには、さっきの
吊部屋を左に備えて、広敷の板敷が伸びている。その中央に根を
生やしたように透かし彫りの衝立が収まっている。
実はこの衝立は、昔は土間の中仕切りの上にあった欄間なのだ。
これを見る時いつも思い出すのが、消え去って久しい昔の台所部分
である。
煙りと煤と蜘蛛の巣と、立ち働いていた人影が今も眼前に浮かぶ。
しかし同時に「復元修理」(*2)という修理方法への大きな疑問
も生じる。
それは家族達から住む家を奪い、「わが家」を日々遠い存在に
してゆくマイナス効果も持つからだ。そしてその後遺症が次の
世代により強く影響するだろう。古い時代の記憶が消えゆく現在、
マイナス効果への認識がより大切でなかろうか。
居室部はまさに、江戸初期の農家を再現した感じで、竹簀子
の天井の下、素朴なあたたか味のある趣を見せ、実用に徹した
構造の力強さを示している。
(:2)民家などを解体修理する際、「復元修理」と「現状修理」の二つの考え方の
修理方法 が考えられる
前者は建築した当初の形に戻して復元する。後者は建築当初の形式が使用上不都合
になり、増改修を繰り返すことによって、形に変化があり現在の形になっている。
その姿のままに修理する考え方。
(続く)
2022-12-21 20:05
当主の随想ー4- [吉村家住宅あれこれ]
大戸口のシンプルな冠木を仰ぎつつ敷居を越えれば、夏でも
ひんやりするほどの薄暗い空間がひろがる。竹すのこの 土天井
を縦横に走る大小の梁が支え、奥の釜屋に至るまでが柱無しの
土間となっている。
この見事な空間の拡がりの片隅に、さりげなく小さな 吊り部屋
を設け、その取り付け梯子に、壁面の装飾を兼ねさせている工夫は
実用一点張りでなく、実に巧みな演出である。いい意味での遊び心
がくみ取られ、おおらかなゆとりを持った構成間隔が窺われる。
それはまた、煙突を省略した「かまど」の機能的、効率的な造形
にも、古人の生活と知恵が結びついたデザインとして表われている。
約二十坪ほどの空間を広々と開放した土間向こうには、さっきの
吊部屋を左に備えて、広敷の板敷が伸びている。その中央に根を
生やしたように透かし彫りの衝立が収まっている。
実はこの衝立は、昔は土間の中仕切りの上にあった欄間なのだ。
これを見る時いつも思い出すのが、消え去って久しい昔の台所部分
である。
煙りと煤と蜘蛛の巣と、立ち働いていた人影が今も眼前に浮かぶ。
しかし同時に「復元修理」(*2)という修理方法への大きな疑問
も生じる。
それは家族達から住む家を奪い、「わが家」を日々遠い存在に
してゆくマイナス効果も持つからだ。そしてその後遺症が次の
世代により強く影響するだろう。古い時代の記憶が消えゆく現在、
マイナス効果への認識がより大切でなかろうか。
居室部はまさに、江戸初期の農家を再現した感じで、竹簀子
の天井の下、素朴なあたたか味のある趣を見せ、実用に徹した
構造の力強さを示している。
(:2)民家などを解体修理する際、「復元修理」と「現状修理」の二つの考え方の
修理方法 が考えられる
前者は建築した当初の形に戻して復元する。後者は建築当初の形式が使用上不都合
になり、増改修を繰り返すことによって、形に変化があり現在の形になっている。
その姿のままに修理する考え方。
(続く)
2022-12-21 20:05