当主の聞き書き(10) [当主の聞き書き]
おゆうさんの逸話でもうひとつ。
明治維新で、武士への貸金が返却されなくなったりして、この家も逼塞した。今後どうするかと親族が会議を開いて、話し合った。
大きいばかりのこの家を取り壊して、その空き地に借家をたくさん建て、現金収入を増やそうということになったが、
その時おゆうさんが「お前たちはなんということを言うのか、先祖から戴いたこの家をつぶしては、墓に入ったとき、ご先祖にどんな申し訳をするのか」と諭した。
みんなは頭を下げて一言もなかったという。
おゆうさんは、「家屋敷は残せ、代わりに書画骨董のたぐいはどんどん売り払え、ただし売るについては、名のある人の所へ売れば、また家運が戻った時には頭を下げて買い戻しに行けばよい」とのことだった。
後々、家運も盛り返したようだが散逸したものは戻らなかった。
おゆうさんのお蔭でこの家も残ったのだと云えよう。
赤松は終生「この家屋敷はご先祖様から戴いたものだ」を口癖のように言っていたそう
だ。
(続く)
2015-04-03 19:43