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“忘れ残りの記”または古家あるじの“譫言(うわごと)” 1 [古家あるじの“譫言(うわごと)”]

  譫言(うわごと)のはじめに

 ふと気づけば、いつの間にか87歳の誕生日を迎えていた。往年の数え年で行けば88歳   米寿の年の誕生日である。僅か1週間だった元年に続いた実質上昭和最初の年から、しぶと くも生き長らえ、父親を越えたのみならず歴代のあるじたちをも、恐らく越えたことだろうかと思うにつけて、そろそろ“残日録”のようなものを書き残してもいい頃かなと思い出した。

 平々凡々の歩みの中でただひとつ、明らかに世の人々と違うのは10歳の時に思いも寄らず、“民家最初の国宝”というお墨付きを住み馴れた古家が頂戴してしまったばかりに、なにかにつけて落ち着きのよろしくない生活をしばらくは過ごしたものの、順応性だけは人並以上に生まれついたか、その後はなんということもなく過ごしてきたと思う。しかし、振り返ってみて思い出を語るとなれば、まずはこの文化財指定の建物群のことになって当然であろう。元から散文的な記憶しか残ってはいないのだが、それもまた、表題にぴったりの内容ということになろうかと、やたらに多くなった暇をつぶしにかかろうかと思い立った次第である。